TDS(Total Dissolved Solids)とPE(Percent Extraction)の比率による味わいの違いと調整パラメータ
TDSとPEの基礎知識
TDSとは
Total Dissolved Solids(総溶解固形分)の略

- コーヒー液中に溶け込んだ固形成分の割合(%)
- 例:TDS 1.30%
- コーヒー液の
- 1.30%がコーヒー成分
- 98.70%が水
- コーヒー液の
- 例:TDS 1.30%
- 適正値:1.15~1.35%
- 📏 測定方法:リフラクトメーター(屈折計)で測定
PEとは
Percent Extraction(抽出率/収率)の略

- コーヒー豆中の可溶性成分のうち、実際にお湯に抽出された割合(%)
- 例:豆に存在する100gの可溶性成分のうち
- 20gが抽出された場合
- PE = 20%
- 20gが抽出された場合
- 例:豆に存在する100gの可溶性成分のうち
- 適正値:18~22%
- 📊 計算式:PE = (TDS × 抽出されたコーヒーの量) ÷ コーヒー豆の量
コーヒーチャート(TDS-PE図)

Ideal Zone(適正抽出領域)
甘み・酸味・苦味のバランスが良い領域
- TDS: 1.15~1.35%
- PE: 18~22%
Under Extraction(抽出不足)
酸っぱくシャバシャバした味、未熟な風味
- TDS: 通常低め
- PE: 18%未満
Over Extraction(抽出過多)
苦くえぐみの強い味、渋みや雑味が強調される
- TDS: 通常高め
- PE: 22%以上
TDS・PEによる味わいの特徴
UC Davisの研究に基づく、TDSとPEの値による風味特性の変化
味わい特性 | TDSとの関係 | PEとの関係 | 最も影響する条件 |
---|---|---|---|
Bitter(苦味) | 強い正の相関 ↑TDS=↑苦味 | ほぼ相関なし | 高TDS域全般 |
Astringent(渋み) | 強い正の相関 ↑TDS=↑渋み | ほぼ相関なし | 高TDS域全般 |
Sour(酸味) | 正の相関 ↑TDS=↑酸味 | 負の相関 ↑PE=↓酸味 | 高TDS・低PE |
Citrus(柑橘系) | 正の相関 ↑TDS=↑柑橘感 | 負の相関 ↑PE=↓柑橘感 | 高TDS・低PE |
Berry(ベリー) | 正の相関 ↑TDS=↑ベリー感 | 負の相関 ↑PE=↓ベリー感 | 高TDS・低PE |
Brown Roast(焙煎香) | 正の相関 ↑TDS=↑焙煎香 | 弱い正の相関 ↑PE=↑焙煎香 | 高TDS・高PE (二次曲線的増加) |
Ashy(灰様) | 正の相関 ↑TDS=↑灰様感 | 弱い正の相関 ↑PE=↑灰様感 | 高TDS・高PE (二次曲線的増加) |
Black Tea(紅茶様) | 負の相関 ↑TDS=↓紅茶様感 | 正の相関 ↑PE=↑紅茶様感 | 低TDS・高PE |
Sweet(甘み) | 負の相関 ↑TDS=↓甘み | 負の相関 ↑PE=↓甘み | 低TDS・低PE |
Dark Chocolate(ダークチョコ) | 負の相関 ↑TDS=↓チョコ感 | 正の相関 ↑PE=↑チョコ感 | 低TDS・高PE |
TDS・PE値による味わいマトリックス

パラメータ調整表
TDSとPEを調整するためのパラメータとその影響
パラメータ | TDSへの影響 | PEへの影響 | 調整方法と影響 | 目指す味わいへの調整例 |
---|---|---|---|---|
粉量・ レシオ | 大きな影響 ↑粉量=↑TDS ↓粉量=↓TDS | 中程度の影響 粉量が多すぎると比率的にPE低下 粉量が少なすぎると過抽出のリスク | 一般的なレシオ: - 濃い味: 1:12〜1:14 - 標準: 1:15〜1:16 - 軽い味: 1:17〜1:18 | 苦味・コク重視: 粉量増加 酸味・フルーツ感重視: 粉量やや増加、PEは低めに 甘み・クリーン感重視: 粉量やや減少 |
挽き目 (粒度) | 中程度の影響 細かいほど抽出効率上がりTDS上昇 粗いほどTDS低下 | 大きな影響 ↑細挽き=↑PE ↓粗挽き=↓PE | 細挽き: 表面積増加→抽出促進→PE上昇 粗挽き: 表面積減少→抽出抑制→PE低下 極細挽き: 詰まりによる抽出阻害リスク | 酸味強調: やや粗め+高TDS狙い バランス重視: 中挽き 苦味・コク重視: やや細挽き 紅茶様風味: 中〜細挽き+低TDS狙い |
湯温 | 中程度の影響 高温ほど溶解度上昇でTDS上昇傾向 | 中程度の影響 ↑高温=↑PE ↓低温=↓PE | 高温(92-96℃): 抽出効率上昇、苦味成分も抽出 中温(88-91℃): バランス良く抽出 低温(80-87℃): 抽出効率下降、酸味強調 | 浅煎り豆: 高温(90-93℃)で抽出 中煎り豆: 中温(87-90℃)で抽出 深煎り豆: 低温(80-85℃)で抽出 酸味抑制: 高温抽出 苦味抑制: 低温抽出 |
注ぎ方 (速度) | 弱い影響 間接的に抽出時間を通じて影響 | 中程度の影響 ↑ゆっくり=↑PE ↓速い=↓PE | ゆっくり注ぐ: 接触時間増加→PE上昇 速く注ぐ: 接触時間減少→PE低下 脈動注ぎ: 新鮮なお湯供給→効率的抽出 一定注ぎ: 安定した抽出 | 甘み・酸味重視: やや速めに注ぐ コク・深み重視: ゆっくり注ぐ クリーンな味わい: 一定速度で注ぐ 複雑さ重視: 段階的に注ぎ速度変更 |
抽出 時間 | 弱い影響 長時間→やや高TDS傾向 | 大きな影響 ↑長時間=↑PE ↓短時間=↓PE | 短時間(1.5-2分): 未抽出・酸味強調 標準(2-3分): バランスの良い抽出 長時間(3-4分): 過抽出・苦味強調リスク | 軽快さ重視: 短時間抽出 バランス重視: 標準時間抽出 コク重視: やや長め抽出 甘み最大化: 短め抽出+低TDS調整 |
目指す味わい別・調整ガイド
酸味とフルーティさを強調
目標値:高TDS (1.4-1.5%)・低PE (16-18%)
- 粉量:やや多め(1:13〜1:15)
- 挽き目:中〜粗挽き
- 湯温:やや低め(85-88℃)
- 注ぎ方:やや速めに一気に注ぐ
- 抽出時間:短め(1.5-2分)
- おすすめ豆:浅煎り・酸味の強い品種
バランスの取れた味わい
目標値:中TDS (1.15-1.35%)・中PE (18-22%)
- 粉量:標準(1:15〜1:16)
- 挽き目:中挽き
- 湯温:90℃前後
- 注ぎ方:均一な速度で注ぐ
- 抽出時間:2-3分
- おすすめ豆:中煎り
コクと苦味を強調
目標値:高TDS (1.4-1.5%)・高PE (22-24%)
- 粉量:多め(1:12〜1:14)
- 挽き目:やや細挽き
- 湯温:高め(90-94℃)
- 注ぎ方:ゆっくりと丁寧に注ぐ
- 抽出時間:やや長め(3-3.5分)
- おすすめ豆:深煎り・苦みの強い品種
甘みとクリーン感を強調
目標値:低TDS (0.9-1.1%)・低PE (16-18%)
- 粉量:少なめ(1:17〜1:18)
- 挽き目:中〜粗挽き
- 湯温:中温(87-90℃)
- 注ぎ方:一定速度で注ぐ
- 抽出時間:短め(1.5-2分)
- おすすめ豆:浅煎り〜中煎り
紅茶様・チョコレート風味を強調
目標値:低TDS (0.9-1.1%)・高PE (22-24%)
- 粉量:少なめ(1:17〜1:18)
- 挽き目:やや細挽き
- 湯温:高め(90-93℃)
- 注ぎ方:ゆっくりと時間をかけて注ぐ
- 抽出時間:やや長め(3-3.5分)
- おすすめ豆:中煎り・チョコレート風味の品種
参考文献
- Guinard, Jean-Xavier, et al. "A new Coffee Brewing Control Chart relating sensory properties and consumer liking to brew strength, extraction yield, and brew ratio." Journal of Food Science 88.5 (2023): 2168-2177.
- Frost, S. C., Ristenpart, W. D., & Guinard, J. X. (2020). Effects of brew strength, brew yield, and roast on the sensory quality of drip brewed coffee. Journal of Food Science, 85(8), 2530-2543.
- Batali, M. E., Ristenpart, W. D., & Guinard, J. X. (2020). Brew temperature, at fixed brew strength and extraction, has little impact on the sensory profile of drip brew coffee. Scientific reports, 10(1), 16450.
- Cotter, A. R., Batali, M. E., Ristenpart, W. D., & Guinard, J. X. (2021). Consumer preferences for black coffee are spread over a wide range of brew strengths and extraction yields. Journal of Food Science, 86(1), 194-205.
- Jonathan Gagné, Physics of filter coffee, 2020
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